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教養科目の紹介:社会のニーズに応えるデータサイエンス教育について

データサイエンス推進センター長 栗本 猛教授

富山大学では、国が進める数理・データサイエンス教育強化の方針にしたがって、「文理を問わず、すべての学生に数理・データサイエンス・AI に関する能力を身につけさせる」ことを目標にデータサイエンス推進センターを立ち上げました。そこで、データサイエンス推進センター長の栗本教授に、データサイエンス教育とその背景となるDX(デジタルトランスフォーメーション)および教養教育と専門教育で実施されるデータサイエンス教育について聞きました。



Q. 現代日本ではDXの推進が重要だといわれていますが、DXを知らない学生のためにDXについて説明願います。

A. デジタルトランスフォーメーションの英語での正しい表記は Digital Transformation なので、本来は「DT」と記すところですが、trans- の略語として X を使う習慣があるそうです。DX 以外にも IX (Industrial Transformation:産業の変革)、CX (Corporate Transformation:企業の変革) という言葉でも Transformation が X と略され、「変わる」という意味で用いられています。DX は一言で言えば「デジタルによる変革」という意味になり、様々なデータをデジタル化し、コンピュータとネットワークを活用することで仕事や生活の有様をより便利に変えていくことと考えればいいでしょう。コロナ禍でネットワークを利用してのリモートワークや遠隔授業が推進され、スマート家電が普及しつつあるのもDXの一種です。政府が進める*Society5.0という考えがあり、そこでは全ての人とモノがネットワークを通じてつながり、様々な知識や情報を共有しつつ最新のITC技術で現代社会の課題解決をめざします。この実現にはDXが不可欠であり、今後の社会を担う人々は誰でもDXに関する知識と技術をある程度以上身につけていることが求められます。
*Society5.0とは、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すものです。具体的には、必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会の様々なニーズにきめ細やかに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスが受けられ、年齢、性別、地域、言語といった様々な違いを乗り越え、活き活きと快適に暮らすことのできる社会です。

Q. データサイエンス教育とDXとの関係について教えてください。

A. 上で述べたように、DXはデジタル化によって社会を変えていくことです。その推進のためにはデータの扱いや活用に関する知識・技術が必要となります。そこには統計学や情報科学の基礎、社会におけるデータ利活用の現状、データを利用する上で守るべき規則やマナーなどが含まれます。データサイエンス教育では時代の趨勢に合わせて、これらを学びます。昔から「読み、書き、そろばん」と言って、文章を読み書きする力と基礎的な計算能力を持つことが求められてきました。これらに加えて、現代ではデータを適切に扱って利活用する力が必須となります。政府の方針により、大学卒業者全員がデータサイエンスに関する基礎的な知識・技術を身につけることが求められています。さらに大学卒業生の半数以上が、より専門的なデータサイエンスの能力を持つことが望まれています。その実現のため、小中高から大学、大学院までデータサイエンス関連の教育を推進するようになっています。

Q. 本学1年生向けのデータサイエンス科目には「情報処理」と新規科目「データサイエンスの世界」「データサイエンスの実践」がありますが、その内容について概説をお願いします。

A. 「情報処理」は、パソコン教室とは異なり、アカデミック・リテラシーの育成を目的とした科目です。アカデミック・リテラシーとは、課題解決のため、必要な情報を自ら収集し、得られた情報を基に分析と考察を行い、その結果を他者が理解しやすい形で発表する能力のことです。これは大学という学びの場で最も求められるものであり、卒業後も社会人としての働きの中で重要になります。1年生前期という大学での最初の時期に大学での学びの方の基礎を修得する科目です。
「データサイエンスの世界」では、様々な分野でデータがどのように扱われて利活用されているかが説明されます。毎授業回ごとに各学部から講師が来て、それぞれの専門分野でのデータサイエンスに関する話題につき講義します。
「データサイエンスの実践」では、端末室のPCを用いて実習形式でデータサイエンスの技術を学びます。前期の「情報処理」で学ぶ表計算ソフト(Excel)を用いたデータ分析、R や Python というプログラミング言語を用いた基礎的なデータ分析を実習します。ここではプログラミングそのものを学ぶのではなく、道具として簡便に利用する方法を紹介します。
いずれも詳細はシラバスを参照してください。

Q. 本学では、全学的にデータサイエンス教育の充実に向けて取り組んでおり、令和2年度から数理・データサイエンス・AI 教育プログラムが始まりました。これについて説明願います。

A. 本プログラムは富山大学生を対象として、教養科目から専門科目にわたる約300のデータサイエンス関連科目の中からリテラシーレベル:4科目8単位以上 応用基礎レベル: 8科目16単位以上 (内、教養科目は2科目4単位以上、 専門科目は3科目6単位以上)を修得した学生に、卒業時に修了書を交付するものです。なお、希望者で修了要件を満たしたものには在学中でも交付可能です。既に令和2年度、3年度入学生の全てが必修である「情報処理」を受講し、リテラシーレベルの修了要件を満たした学生は各学年で500名を超えています。就職活動時に修了証を示すことで、在学中に身につけたデータサイエンス関連の能力を担当者にアピールすることができます。より詳しくは富山大学データサイエンス推進センターを参照してください。

Q. データサイエンスを学ぶに当たって、学生に要望したいことはありますか。また、どのように学んでいけばよいですか。

A. 世間ではデータサイエンスというと高度な統計学やプログラミングを学ぶと想定することがありますが、それらは本質的ではありません。データサイエンスに関わらず、大学での学びの本来の目的は課題解決能力の育成です。データサイエンス関連の科目はそのために有用な知識・技術を身につけるためのものです。目的と手段を混同しないようにしてください。
学生に要望したいのは、「情報処理」科目の紹介で述べたアカデミック・リテラシーを身につけることです。そのためには何をどうすればよいのかを自分でよく考えて、計画性を持って勉学に取り組んでください。必要に応じて、教員や先輩・友人に助言を求めるのもいいでしょう。ただし、それらはあくまでも参考であり、それを基にどうするかは自分で考えましょう。ましてや、他人のレポートや課題等を丸ごとコピーして提出するなどといった行為はNGです。コピーさせた方も厳罰になりますので注意してください。
頑張って勉強してもうまくいかないこともあるでしょうが、大学生の間での多少のつまずきは後で取り返せます。失敗は恐れずに、あれこれ試行錯誤してください。その経験が後で必ず活きてくるでしょう。